Strawberry & Chocolate

『なぁ、リナ。さっきミドリのヤツがなんか気に障ること言っちまったみたいだな』



「へ!?」





スーパーの中、カートを押して野菜を選んでるあたしに、ルゥが唐突に尋ねてきた。








「別に、気に障ったとか…そんなんじゃないよっ!ごめんね、気にかけてもらって…」



『なんで気になったんだ?ミドリの言葉』



「…あたしが中村園にいる理由はね…。
……記憶がないの。多分…6歳くらいまでの記憶が。だから昔の〝あたし〟を月島先生が何か知ってるのかもって思って…」



『…記憶喪失ってことか…!?けど、子供の頃の記憶なんてフツーあんま覚えてないだろ?』



「うん、そうかもしれないけれど…。でもどんなに小さくても自分の名前は覚えてるでしょう?パパやママの事とか自分の誕生日とか…。
だけどあたしは何にも覚えてなかった。
…気がついたら一人ぼっちで。公園の時計の前に立ってて。
…自分が何をしてどうしてここにいるのかも、自分が誰なのかも分かんなくて。
ただ…冷たい雨の中で……泣いてた」






泣いてた理由も分かんないけど。




でも、すごく寂しくて、苦しくて…悲しかったことは覚えてる。







その時。



ふと、雨が止んだの。



そして〝あなた〟が笑いかけてくれた。



差し伸べられた手の温もりが、あたしの…〝中村 リナ〟としての最初の記憶。

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