幕末Drug。
−…鬼の副長。
ああ、それは聞いたことが有る。土方さんの、影の呼び名。
隊士としての掟を破った者は、例え仲間であっても切腹させる。
その厳しさ故、付いた呼び名が『鬼の副長』…。
『土方さんらしいよね。』と笑う沖田さんと、『あ、はははは』と苦笑いを浮かべる原田さん。
土方さんが怖いのは、事実らしい。
『…なあトシ。新しく出来た茶屋の団子を食ってみたいんだが、明日は生憎、お偉いさんと出掛けねぇとなんねぇ。いつ無くなるか分からねェ命、食いたい物は食っておきたい。…俺の代わりに、買って来てくれないか?』
近藤さんが、穏やかな口調でそう告げる。
その言葉に土方さんは、未だ眉間のシワは残しつつも、渋々頷いた。
『…それじゃ、明日は俺と土方さんで京の町を案内するからね。』
楽しそうな沖田さんにつられ、私も笑顔で頷いていた。
そこでふと、あおいが口を開く。
『…でも明日、私は仕事だぁー。…あ!荷物事務所だ!!』
その言葉に店長も小さく声を上げる。
『…俺もだ。』
事務所の扉が開かずに、此処へと辿り着いてしまった私達。
色々有りすぎてすっかり忘れていたけれど、事務所の扉が開かずの扉になってしまうと色々マズイ。
金庫も事務所にあるし、私達の荷物が入ったロッカーだって事務所の中だ。
『…今日、金庫チェックしてないや。』
雛がポツリと呟く。
自分の荷物より仕事を心配するなんて、顔に似合わず仕事人間だ。
『…もう一度、扉を開けてみよう。もしかしたら、開くかもしれない。』
店長が口を開く。
『でもそうなったら、今度は此処との繋がりが消えちまうかもしれねェな…。』
−…確かにその通りだ。
此処と繋がったせいで事務所に入れなかったのだとしたら、また扉が事務所と繋がれば此処へ来れなくなるだろう。
『…それも、運命。』
珍しく、斎藤さんが口を開いた。
『君達には君達の、俺達には俺達の生きている世界が有る。…本来なら其処で留まるべき者達が、偶々違う世界に足を踏み入れてしまった。ならば…本来居るべき所に戻るのが、普通であろう。』