幕末Drug。
…ガラッ。
襖が開くような音がした。
『…開いた。』
私がそう呟いたのも束の間、不意に小さな金属音の様なものが聞こえた。
『………何奴。』
低い声で呟かれる。
目の前には、喉元に刀を突き付けられている雛の姿。
当の本人は、自分に刃先を向ける細身の男を見て、驚き過ぎて固まっているようだ。
しかし、呆気に取られているのは私達だけではなかった。
『………子供、か?』
刀を突き付けている張本人が雛の姿を見て眉を寄せ、最も困惑している。
『…子供?』
その言葉に、今度は雛が反応した。
…最悪だ。
その言葉は、童顔を気にしている雛にとって1番の禁句。童顔の上に『雛』という幼さを表す名前のせいで、学生時代から散々からかわれて来たらしい。
身長150センチ、童顔に小鹿のような瞳、眉よりほんの少し長く切り揃えられた前髪に、肩より短く切られた後ろ髪。
茶髪で化粧をしていることを除けば、確かに菊人形の様である。
しかし、本人にしてみればそれが『洗練された大人スタイル』らしい。
…多分、何らかの美容雑誌に影響されたに違いない。
『…あなたね、失礼じゃない?24歳の女性を掴まえて子供だなんて。大人の色気が分からないの?その顔に付いてる二つの目は、節穴なのかしら?』
喉元に突き付けられた刃先をものともせず、雛が言い返す。
『な…何を…』
『何よ、これだけ言われてもまだ子供だとでも言いたい訳?』
雛が腕を組んで相手を見据える。
『…プッ…あははっ!!』
不意に聞き覚えの有る声が室内に響いた。
『やーっぱり君達は、面白いや。』
障子の前に立っていたのは、沖田さんだった。
『…山南さん、その子達は無害だ。』
離してやれ、と溜息混じりに告げたのは、右手奥に座る土方さん。
未だ動揺している様子の山南さんだったが、ゆっくり刀を鞘に戻した。
『…お帰り、遅かったね。』
沖田さんが歩み寄り、笑いかけてくれる。
『すいません、帰り支度をしてたら遅くなってしまって…』
私はそう答えた。