幕末Drug。
『……帰り支度に、1週間も?』

沖田さんの返答に、私は携帯の時計を見た。

『いえ…多分、1時間くらいです。』

話が上手く噛み合わない。

『…君達が帰ってから、こっちではもう1週間位経ってるよ。』


…どうやら、時間の進み方が違うらしい。


『何はともあれ、再会出来て良かった。…改めて、お帰り。』


にこやかな沖田さんの隣で、未だ戸惑いの表情を浮かべる山南さん。


『…山南さんには、俺から話そう。総司、あれを渡してやってくれ。』

土方さんは立ち上がり、山南さんを連れて部屋を出た。


『ビックリしたー…。』


雛が大きな溜息をつく。


『驚いたのは俺達の方だって。まさかあの山南さんに噛み付く子が居るとは…ねぇ。』


沖田さんの説明によると、山南さんは新撰組の総長兼局長の相談役。…言わば、組織のブレーンと言われるポジションだ。

頭脳明晰、新撰組の中で山南さんに口喧嘩を挑む人は居ないと言う。

それを聞いた雛は、再び大きな溜息をついた。

『まあまあ…それより、丁度良かった。今から京の町を案内するよ。』

『え、本当ですかぁー?』

『約束、だからね。』

沖田さんの言葉に目を輝かせるあおい。

その様子に、背後で見守っていた店長があおいの首根っこを掴む。

『俺とコイツは明日仕事なんで、今日はこの辺で。』

『えぇぇぇーーー…』


悲しげな叫び声を余所に、店長はあおいを引きずるようにして立ち去る。背後の襖が閉まり、私と雛は屯所に残った。


『…それじゃ、君達二人だけだね。案内するから、着いてきて。』


私達は靴を脱ぐと、鞄に無造作に押し込んだ。
私達の世界では真夜中だったけれど、こっちでは昼間らしい。障子を開けると、寝ていない私には眩しい程の光が差し込んできた。
長い廊下の脇には庭園が広がり、三本の桜の木が植えられている。

『…春になったら、綺麗に咲くよ。』

沖田さんが桜を見ながら、そう呟いた。その横顔は何故かとても寂しそうで…私は目を逸らし、桜の前の池へと視線を移した。

『…池も、綺麗ですね。』

『ああ。…あそこに居る鯉は、肉食だって噂だから気を付けて。』

『に…肉食!?』

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