幕末Drug。
思わず声を上げてしまった私を見て、沖田さんの肩が震える。
『…からかいましたね?』
『御免、騙されると思わなくて。』
御免と繰り返しながら、いつも通りの笑顔を浮かべる沖田さんを見て私は漸く安心した。
『…着いたよ、入って。』
目的の部屋の前に到着すると、沖田さんが障子を開けてくれた。
『う…わ。』
開かれた先にあったのは、時代劇などで町娘が着ていそうな小綺麗な着物。それが、壁に丁寧に掛けられている。
『…新撰組から、君達への贈り物。町を歩くには、今の服装じゃ目立ち過ぎるからね。因みに、提案者は土方さん。…買いに行ったのは、俺だけどね?』
室内に入り、間近で着物に見入る私達。
『凄く綺麗…。本当に、良いんですか?』
薄紫色の着物の袖に触れながら、雛が振り返る。
『あの後、君達に貰った薬や包帯がかなり役に立ったんだよね。…その感謝の気持ちも兼ねて、さ?気に入って貰えると、嬉しいんだけど。』
沖田さんの言葉に、私は目の前に掛けられた桜色の着物に触れてみた。
派手な着物ではないけれど、手触りが良く柔らかい生地の着物。
『凄く…嬉しいです。』
無意識の内に、私はそう告げていた。
『…良かった。』
沖田さんが柔らかく微笑む。
『紫苑色の着物は一之瀬さん、黄丹色の着物は上原さん、桜色は高杉さんを意識して選んでみたんだけど…』
紫苑色と呼ばれる色は薄紫で、雛に良く似合う色だと思った。一緒に掛かっている紫がかったピンク色の帯も素敵だ。
私を意識して、と用意された着物は桜色。同じ様に藤色の帯が掛けられているも、雛の着物よりも濃いめの紫色をしていた。
私は明るめの茶髪で、肩の下まで伸びたロングヘアー。その髪の色にも、合わせてくれたのだろう。
『ありがとうございます!』
雛が嬉しそうに返事をする。
『…それじゃ、此処を使って良いから、着替え終わったら声を掛けてくれるかい?』
『『分かりました。』』
私と雛は、同時にそう答えた。