幕末Drug。





『…とは言ったものの、着物の着方なんて知らないしなぁ…。』


雛が呟く。


『私の母親、昔着物教室に通ってて着付けも習ってたから…ある程度なら、私も出来るかも。』

ほんの少し、着付けには自信があった。母親の着付けを見ているし、自分で着付けしたこともある。


成人式の時、予算より高い着物を選んでしまった為、美容室代を浮かそうと自分達で着付けやメイクをして挑んだのだ。

美容師志望の子が髪をセットし、メイクアップアーティストを目指す子が見様見真似でメイクを施し、3人分の着付けを私がした。


その時に比べたら、今回の着物は着付けもそんなに難しくない。

『…美穂、意外と器用な子だったんだね。絵はあんなに壊滅的なのに…。』

『…まあね。』


…そう、その通り。
私は昔から、絵が苦手だ。『レモンを書いて』と言われれば葉っぱになるし、『葉っぱを書いて』と言われれば、レモンになる。

ドラッグストアに勤務していれば絵が下手でも関係ないと思われるかもしれないけれど、実はそうでもない。

POP(ポップ)と言って、商品の説明書きや値段を書く際に、どうしてもイラスト等を書かなければいけなくなるのだ。

犬を描けばウサギと言われ、ウサギを描けば猫と言われる。前にライオンを描いた時なんか、『可愛いね、そのエリマキトカゲ。』とあおいに言われた。訂正するのも面倒だったので、『でしょ、爬虫類好きだからさ。』と答えておいた。そのお陰で、あおいは未だに私を爬虫類好きだと思い込んでいる。


…しかし、絵が下手なだけで不器用な訳ではない。工作は昔から大の得意だし、料理もそこそこ出来る腕前だ。

『じゃ、宜しくお願いしまぁーす。』

荷物を傍らに置くと、雛は照れることなく衣服を脱ぎ、着物に袖を通した。茶髪のセミロング、髪型はお菊人形、更には低身長と人形要素を多く含んだ雛が着物を着ると、まるでグレた日本人形のよだ。


『きつっ…洋服慣れしてるから、着物が辛い…苦しい。』

雛が顔をしかめる。

『頑張って!慣れれば背筋が伸びて、良いと思うよ。』


帯を締め終えると私は雛の背中を押した。


『さ…次は私の番、ね。手伝ってくれる?』

『了解。』

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