幕末Drug。
雛が帯を持ち、私が自分で着付けをする。
桜色の着物は触った時よりも肌触りが良く、ほんのり甘い香りがした。
『…よしっ、出来た。』
帯を絞め終えると、雛が感動したように小さく声を上げた。
『美穂…凄く良く似合ってるよ!茶髪のロングヘアーも、いつもならただの派手な女に見えるのに…今日は凄く清楚!桜色も超似合ってる!』
…少し引っ掛かる所もあるけど、それくらいは気にしない。確かに姿見に写った私は、いつもより2割増しくらいは可愛く見えた。
『あおいが居なくて残念だけど…今日は、思いっ切り、楽しもうね。』
雛は既に浮かれモードだ。テンションが高い時の雛ほど、怖いもの知らずな者は居ない。
『沖田さぁーん!準備完了です!!』
障子を開けながら、持ち前の良く通る声で沖田さんを呼ぶ雛。
『…意外と早かったね。』
数秒してから、沖田さんが顔を覗かせる。
『うん、やっぱり…良く似合ってるね。一ノ瀬さんは可愛いし…高杉さんは、綺麗だ。』
沖田さんが私達を交互に眺めながら、満足そうにそう告げた。その言葉にほんのり熱を持つ頬。私はそれを誤魔化そうと言葉を続けた。
『…着物でこういう色の組み合わせを考えるなんて、沖田さんも斬新ですね。』
『まあね。町に馴染んで貰う為の着物だけど…馴染み過ぎると逆に危険だからね。可愛い町娘が二人、京の町をフラついてたりしたら…直ぐさらわれちゃうよ。少しくらい異質な方が周りの目を引くし、危ない奴も手を出し辛くなるって訳。』
成る程、と私は思った。
『…そんなに私達は、目立ちますかね。』
雛が控えめに問い掛ける。
『悪い意味でじゃないよ。…ま、町に出れば分かる筈。あんまり気にしなくていいからね?俺達が、ちゃんと守るから…さ。』
沖田さんが笑顔を向ける。‘守る’だなんて言われたことが無い私達は、思わずニヤけそうになる口元を片手で押さえながら頷いた。
『さ、行こうか。荷物は押し入れの奥に入れておくと良いよ。』
私達は言われた通りに荷物と洋服を押し入れに押し込むと、沖田さんの後ろを付いて行った。