幕末Drug。
浅き夢見し。
廊下に出ると、土方さんと山南さんが廊下の端から歩いて来る姿が見えた。
『土方さーん。終わりましたよ、着替え。』
沖田さんの呼び掛けに、土方さんが顔を上げる。
『どうです?やっぱ俺の色選びは間違って無かったでしょ?』
沖田さんが得意げな表情で土方さんに歩み寄る。
『…そうだな。』
私達を交互に眺める土方さん。不意に口端を僅かに持ち上げると、山南さんへと視線を移した。
『事情は、先程説明した通りです。彼女達の事は、私が責任を持って安全を確保致しますので。…良いですね?山南さん。』
言葉遣いは丁寧なものの、山南さんに有無を言わせぬ迫力が有る。
『まあ…近藤さんの許可も下りてるみたいですし。何も言いませんよ、私は。』
溜息混じりに山南さんが答える。
『但し、くれぐれも危険な真似はしないで下さいよ。変な輩が増えています。…何か異変があったら、直ぐに知らせて下さい。』
『ハイハイ、分かってますとも。それじゃ…行こうか。』
沖田さんが調子良く答えると、土方さんが後に続く。
『おい総司…山南さんへの口の利き方を少し考えろ。』
沖田さんのポニーテールを掴んで軽く引っ張る。
それに大袈裟に反応を示す沖田さん。
『あだだだ!抜ける、抜ける!!』
二人のやり取りを見ていると、まるで仲の良い兄弟のようだ。
『楽しみだね!』
着物姿の雛も満面の笑みを浮かべている。山南さんの隣を通り過ぎる時だけ軽く頭を下げ、先程のいざこざを感じさせない笑顔で切り抜けたのは、流石だと思う。
『右側が一之瀬さん、左側が高杉さんの下駄だから。』
玄関に着くと、二足の下駄が用意されていた。私のは黒地に藤色、雛のは黒地に朱鷺色をした下駄だった。
『可愛い…!』
雛が嬉しそうに駆け寄る。
『着物とお揃い、だね。』
沖田さんが微笑む。
凄く、凄く嬉しい。
そういえば、私達の靴は無造作に鞄につっこんだ侭だ。雛なんて、ショート丈とは言えブーツを履いていた。今頃クタクタになっているに違いない。
それを思うと、少しだけ靴に悪い気がした。