幕末Drug。
『…武士の魂を持たねぇ部下を持つと悲しいな。…っと、一人だけ突っ込んで来た奴が居たか。』
薄汚れた着物を纏い、見るからに刃先が錆び付いている刀を持った男へと視線を移す。既に事切れている様子だが、刀は握り締めた侭だった。
『…こんな刀じゃ、野菜すら切れませんね。』
沖田さんが刃先の錆に眉を寄せる。
『手入れをしていないのか…させて貰えなかったのか。どっちにしろ、録でもない頭に付いちまった罰だな。』
沖田さんはそう言うと、私へと振り返った。
『…大丈夫?怪我はない?』
その顔は、いつもの優しい沖田さんだった。
『は…い。ちょっと驚いてますけど、大丈夫です。』
道端に広がる血生臭い匂いに噎せそうになったものの、怪我もなく済んだのは沖田さんのお陰だ。
『…おい、大丈夫か?』
ふと雛の方へと目をやると、立った侭震えていた。
雛を斬ろうとしたのは、先程の集団の頭。言葉にならない位、強い殺気だったのだろう。
『…大丈夫、です。』
絞り出した声が、震えている。
『…安心しろ。お前は絶対、斬らせない。』
土方さんが雛の顔を覗き込みながら、頭に片手を添える。
『…めっずらしー…。』
沖田さんがその光景に思わず声を上げる。
『土方さんが女の子に触れるなんてねー…。そうか、雛ちゃんか…。』
一人納得した様子で頷く沖田さん。
…何となく、言いたいことは分かる気がした。
『…ホラ、行くぞ。』
沖田さんの言葉が聞こえたのか、土方さんが睨みながらそう告げる。
『へーい。』
ふざけた調子で返事をすると、屯所に向けて再び歩き始めた。
地面に転がる死体。
…私はそれをなるべく見ないように、前を向いた。
空は先程よりも暗くなり、紫苑色をしていた雲も今はすっかり灰色に染まってしまっていた。
大きな満月が京の町を照らし、私達は月明かりと時折店先に燈されている提灯や松明の明かりをぼんやり眺めながら帰路に着いた。