幕末Drug。
私達の横を通り過ぎる時、不意に沖田さんはそう告げた。


沖田さんはまだ‘暴れ足りない’のだろう。


でも…−土方さんを見つめる瞳が余りに寂しげで、私は言葉を詰まらせた。



--沖田さんは、何処か生き急いでいるように見える。


きっとそう感じたのは、私だけじゃない。


『…取り敢えず、話は部屋で聞こう。総司は着替えたらいつもの部屋に来るように。…良いな?』

険しい表情の侭、土方さんは背中を向けて歩き出した。
雛や山崎さんも後ろに続く。


『沖田さん…』


藍さんが不安げな視線を沖田さんに向ける。


『…大丈夫。後で行くから、先に土方さんと話をしていると良いよ。』


いつもの優しい表情で、沖田さんは微笑んだ。

『…はい。』


藍さんは一礼すると、土方さん達の後ろへと付いて行った。
私も先に行こうと土方さん達が向かった方向へと足先を向けた瞬間---

『…ッゴホッゴホッ!』



自室へと向かおうとする沖田さんが、廊下の途中で苦しげに咳き込み始めた。


『大丈夫ですか…?』


背中を丸めて柱に片手を付く沖田さんの背中に片手を添えると、異様に背中が熱くなっていた。



--熱があるのかもしれない。



『…ッごめん、大丈夫だよ。ちょっと咽ちゃっただけだから。』

『…風邪、ですか?』

『まあ、そんなトコ。』

それから数回咳き込むと、沖田さんはゆっくり身体を起こした。


『…美穂ちゃんも、土方さん達についていった方が良いよ?似たような部屋ばっかりだから、迷っちゃうかもしれないし。』


何時も通り、余裕のある笑みを浮かべる沖田さん。

そんな沖田さんが…今は無性に、儚く見えた。




…今、この人を独りにしちゃいけない。




私の本能が、そう告げた。




< 39 / 75 >

この作品をシェア

pagetop