幕末Drug。
『…今日はもう夜も遅い。どうだ、藍さんさえ良ければ泊まっていかないか?』
近藤さんが満面の笑みで問い掛ける。
『下手に夜の町を出歩くのは危険だ…そうした方が良いだろう。』
土方さんも近藤さんの意見に同調した。
『でも…良いんですか?』
藍さんが申し訳なさそうに眉を寄せる。
『ああ。部屋数が足りない故、高杉さん達と同室になってしまうが…問題無いだろう?』
近藤さんは私たちを振り返った。
『勿論です。藍さんさえ良ければ、是非。』
雛が頷いた。私も続いて、首を縦に振る。
『ありがとうございます…!其れでは、お言葉に甘えさせて頂きますね。』
藍さんが嬉しそうに笑みを浮かべた。
−−波瀾の人生を送っているのに、笑顔を忘れない藍さん。
そんな彼女の強さに、ほんの少し…嫉妬した。
『さ…今日はお開きにしよう。』
近藤さんの言葉に皆が立ち上がり、各々の部屋へと戻って行った。
『ごめんなさい…いきなりお邪魔してしまって。』
廊下の途中で、藍さんが私と雛に声を掛ける。
『いいえ!気にしないで下さい。私達も居候の身ですし…。』
雛が人当たりの良い笑みで応える。
『京へ来てからは同年代の女の子の友達なんて居なかったから…こうして一緒にお話出来るのが嬉しくて…』
そこまで言うと、藍さんは片手で口許を覆った。
『ご、ごめんなさい!勝手に友達だなんて…。』
とても控えめな藍さん。私達とは大違いだ。
其の仕草も表情もとても可愛くて、同性ながら守ってあげたくなった。
こんな女の子が、たった1人でお兄さんを探しているなんて…。
きっと、京に行くという決断も相当な勇気を要したに違いない。
不安で不安でたまらないのに、それを押し殺して皆の前では明るく振舞う藍さん。
---…私は、藍さんに何が出来るだろうか。
『…友達、ですよ。美味しいお団子まで頂いて…私達の方こそ藍さんには感謝の気持ちで一杯です。』