幕末Drug。
花冷え。
…遠くに人の声がする。
『…ほ、美穂!』
頬に当たる、細い指の感触。
最初は優しくつつく様に触れていたものの、次第に指先に力が篭めれ思い切り頬を押される。
『………いだ、だだだ……』
『美穂!早く起きないと、朝ご飯片付けられちゃうよ!』
『うーーん……後10分。』
『居候の分際で、一日の始まりに遅刻とか有り得ないからぁ!!早く起きてってば!!』
雛が容赦なく頬を抓る。
『いだだだ…分かった、分かったから、後30秒だけ待って。』
私高杉美穂は、朝に滅法弱い。
薬局の仕事も、朝が起きられないという理由で遅番にして貰っている程だ。
『…ほら、もう30秒経った!着替えも用意して貰ったから、早く着替えちゃって!!』
掛け布団を、雛が無理やり引っぺがす。
冬の朝独特の冷たい空気が、全身を包み込む。
『…う、ううう…寒い。』
『起きて歩けば暖かくなるから!』
私達の遣り取りを見て、藍さんが控え目に笑う。
『お二人とも、仲が良いんですね。』
この状況を見てそう言える藍さんがスバラシイ。
凍えそうになる身体を渋々起こし、私は大きく欠伸をした。
『ホラ、昨日より動きやすそうな着物を用意して貰ったよ。』
雛がくるりと一周して見せる。
薄い紫色の着物だけど、町の娘さんが着ていそうな柔からい生地。
『…ホントだ。雛、自分で着れたんだ。』
『いや、藍さんにお願いしちゃった。』
『………。』
《立ってる者は親でも使え》。この言葉は雛の為に存在している言葉かもしれない。
『雛さん、胸があるから羨ましいです。』
どこまでも温厚な藍さん。一度くらい、雛に怒って貰いたいものだ。
『美穂のはねー…ジャーーン!これです!』