幕末Drug。
『俺はやっぱ、一君の作る卵焼きが好きだなー…。』
ふと、沖田さんが呟いた。
『…斉藤さんの、ですか?』
『そう。』
『…斉藤さん、料理するんですね。』
『うん。此処の飯は、隊士が交代で作ってるからさ。』
表情一つ変えず、沖田さんは目の前の料理を美味しそうに掻き込んだ。
『ああ、そうなんですか…って、えェェェ!?』
意外過ぎる事実を知って、私は思わず大声を上げてしまった。
『美穂、静かに!』
雛に注意されるも、にわかには信じられない。
『因みに、今日の朝食当番は左之と俺と市村君。…中々なモンでしょ?』
沖田さんが自慢げに目を細める。
『…ハイ、とても美味しいです。』
自分より料理が上手いのは悔しいけれど、本当に美味しかった。
原田さんが自信満々だったのも頷ける。
『…そうだ。もし明日も此処に居てくれるのなら…君達に未来の料理を作って貰いたいなぁー。』
近藤さんが、ゆったりとした口調でそう告げる。
彼にしてみれば、只の好奇心に過ぎないのだろう。
しかし−−
『そ…そうですね、藍さんのお兄さんが見付かる迄、此方でお世話になれればと思っていますが…。料理、ですか…。機会があれば…まあ…。』
雛がぎこちない笑顔で近藤さんの言葉に答える。
『そうかそうか。君達は新撰組の大事な客人だ…ゆっくりしていってくれ。未来の食事か…生きる楽しみが一つ増えたな。』
ガハハ、と豪快に笑う近藤さん。
『…近藤さん、大事な客人に食事作らせる奴が何処に居るんだ。』
そんな様子に土方さんが眉を寄せ、近藤さんをたしなめる。
『いえ、良いんです!私達も部屋をお借りしている訳ですし…それくらい、やらないと!』
先程の受け答えとは打って変わり、真っ直ぐ土方さんを見据える雛。
…土方さんが絡んだ時の雛は、やる気が違う。
其の迫力のある言い方に、土方さんが苦笑いを浮かべた。
『…好きにしろ。』
『丹精込めて作ります!』