幕末Drug。
…そんなに料理に自信があるのか、と正直私は不安になった。
雛が作る料理と言えば、今まで聞いた限り《牛すじ煮込み》《豚の角煮》《唐揚げ》と、肉料理ばかりだ。更に付け加えるとするなら、「これが日本酒に良く合うのよ!」と大酒呑みらしい発言までしていた。
まあ…雛に文句を言っている場合じゃない。
私だって、得意料理は《冷っ奴》と《スクランブルエッグ》だ。
前者に至っては、火すら使わない。
食事を任されると分っていたら、もう少し練習してから来たのに…。
『…未来の食事って、何ですか?』
ふと藍さんが不思議そうな表情で私達を見つめた。
『ああ…そっか。藍さんにはまだこの子達の事、詳しく話してなかったね。御免、後でちゃんと説明するから。』
沖田さんが優しい表情で藍さんに声を掛ける。
藍さんも、其れに応える様に笑顔で頷く。
…たったそれだけの事なのに、胸の奥がギュッと締め付けられる様な感じがした。
『…美穂、御飯落ちたよ?』
雛に言われて我に返る。
『え…あっ!』
『ドジ。』
雛の冷たい視線を浴びながら、慌てて膝の上に落ちた御飯を拾い上げた。
『…美穂ちゃんて、意外に抜けてるよね。』
沖田さんが可笑しそうに笑う。
『君達が来てから、ホント楽しいよ。』
作り笑いではなく、本当に楽しんでくれている様な表情。
…今は、其れだけでも良いかもしれない。
彼が楽しそうに笑いかけてくれるだけで、先程の胸苦しさは自然と薄れていった。
しかし−−
同時に沸き上がる淡く、甘い感情…−
私は其れを、グッと押し殺した。