幕末Drug。
『新八にばっかり、良い格好させる訳にはいかないからね。』
穏やかな空気を感じられたのも束の間、彼の目付きは僅かに鋭くなった。
『あ…あの、沖田さん!』
『ん?』
思わず空気を変えようと、私は沖田さんの名前を呼んでしまった。
『どうしたの?』
沖田さんが私の顔を覗き込む。
『えっと…あ、あの!私にも、剣術を教えて下さい!』
…本当に、咄嗟の一言だった。
呼んでおいて用事が無いなんて、変な人だと思われかねない。だから思い付く侭に口走ったのだけど…完全に、裏目に出た。
『…剣術を?』
『…は、はい。』
『美穂ちゃんに?』
『……はい。』
…今更、取り消すなんて出来ない。
其の場に居た全員の視線が、私へと向く。
『…何でまた。』
目を丸くし、呆気に取られた様子の沖田さんが私に尋ねる。
『…これから先、藍さんのお兄さんを私も一緒に探したいんです。でも、もしかしたらまた…思いがけない所で、襲われるかもしれない。…だから』
『自分の身は、自分で守りたい…って訳か。』
私の言葉の続きを、永倉さんが代弁してくれた。
『成程ね、確かに此の御時世…何が起こるか分からねェ。女でも、身を守る術を覚えておくべきかもな。』
永倉さんの言葉に、原田さんが頷く。
『特に君達みたいな特殊な子は、何時危険な目に曝されるか分からないからね。…良いんじゃねェ?俺は、賛成。』
原田さんが、片手を挙げて微笑む。
『俺も。』
其れに続いて、永倉さんも手を挙げた。
『…あっは、此ればっかりは俺の独断で決められないよ。屯所に戻ったら、土方さんと近藤さんに相談してみるからさ?…それで良い?』
私を優しい眼差しで見詰める沖田さん。そんな彼を見て、私は思わず大きく頷いてしまった。