幕末Drug。
鬼と化す。
…冬だと言うのに、与えられた部屋の中は暖かい。
方向感覚は余り良い方ではないけれど、今更ながら南向きの部屋を与えられたのだと言う事に気付いた。
こんな細やかな…そして優しい気遣いをしてくれるのは、近藤さんだろうか。…いや、土方さんかもしれない。
そんな事をぼんやり考えながら、特に遣る事も無い私達は京の町を巡回してる隊士や執務にあたる幹部達の迷惑とならない様に、大人しく部屋に籠もっていた。
藍さんは誰かと話をしているのか、朝食の後から姿が見えない。
『私達ってさー…』
私の隣に座り、化粧直しをしていた雛が不意に口を開く。
『未来から来た割に、何も出来ないよね…』
決して重々しい口調では無いけれど、時折雛の発言は心にズンと重く圧し掛かる。
『た、確かに…』
『料理もさー、戦いもさー…町に出れば襲われちゃうし。何かしたいけど…思い付かないよ。』
パタン、と音を立ててファンデーションのケースを閉じると、雛は小さく溜息をついた。
『美穂はこれから沖田さんにあれこれ教わるから良いとしてもさ、私は体力に自信が有るわけでもないし…出来る事と言えば、精々庭掃除か縫い物位だし。』
役に立ちたい、という気持ちは私も雛も変わらない。
新撰組を知れば知る程、何か力になれれば…と、思ってはいるのだ。
『あと私が出来る事と言えばー…メイクくらい?』
ポーチに入ったメイクブラシを取り出す、顔の前で揺らしながら唸り声を上げる。
『んー…無理、か。こんなのじゃ何の役にも立たないや。』
再び溜息をつくと、ポーチの中にブラシを押し込んだ。
『…私だってさ、沖田さんに剣術を習ったところで何が出来る訳じゃないし。』
つられて私も溜息をつく。
『何かさ、未来から来たけど…この時代の人たちの方が何でも出来るみたい。本当の意味で自立してるっていうかさ…。』