王国ファンタジア【宝玉の民】-外伝-
歓楽街に沈む夜
ある夏の暑い夜。
手に持った扇子でパタパタと扇ぎながら、トールは歓楽街を歩いていた。
煌めく明かりの下。
娼婦は暑さに煽られ普段より露出の高い衣装を身に付け男を誘い、
仕事帰りの男達は、冷たいビールに舌鼓を打つ。
夏の解放感に浮かれ、ここはどこよりも賑わいを見せていた。
今日は客足もなく、早めに仕事を切り上げた。
こう暑くては真面目に仕事などしていられない。
(河原の辺りならもう少し涼しいですかねぇ〜?)
そう思い、河原へと足を運ぼうかという時に、背後から声を掛けられた。
「お、情報屋。
こんな時間にこの辺歩いてるなんて珍しいな。
仕事はどうしたんだ?」
振り返ると、そこに居たのは得意客のドルメック。
暑いのか、いつもは下ろしている肩までの茶色い髪を結んでいる。
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜、
アタシのことは名前で呼んで下さいよぉ〜。
いつも言ってるじゃ〜ないですかぁ〜」
ぶつくさ文句を言いながらも、客足が無く早々に仕事を切り上げてブラブラしていたのだと説明する。
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