派遣先の研修
穂高が着替えて外に出ると、その客は買い物袋を両手で持って、ちょこんとベンチに座って待っていた。

「お待たせしました。家はどちらですか?」
「4丁目のアパートよ。すぐそこだから」
「いや、4丁目ですか? 遠いですよ?」
「いつも歩きなの……。慣れちゃった」

ちょこん、と首を曲げる様子が可愛らしい。
最近はこういうタイプの女性はちょっといないよな、と穂高はひとり頷いた。
訴えかけるような瞳をしている。
オレの車で送りますよ、と笑いかけながら、ぎっしり食料品を詰めた買い物袋を手に取った。

「ありがとう……。優しいんですね」


4丁目の木造アパートは、そこだけがポツンと取り残されたように草に囲まれて建っていた。
裏は駐車場になっているらしい。

「入ってください、お茶でもどうぞ」
「え、でも」

今時、こんな警戒心のない女がいるなんて……と、穂高は内心驚いた。

「今日はハンバーグと目玉焼きなの」
「でもまだ昼間ですよ」
「今から仕込んでおいたら、夜は焼くだけでいいもの」

じゃあ、せっかくだから……と、穂高は玄関を閉めた。
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