派遣先の研修
その日は早番で、午後3時には北野森は帰路についた。
裏口からコトブキ堂を出た北野森は、先程パン粉を買った客が、しゃがみこんでいるのを見つけた。

「どうかされましたか? お客様」
「お腹が痛くて……」
「店内に入って休まれては? さ、どうぞ」
「大丈夫……。お願いがあるんですけど……」
「はい?」

腹が痛いと言ってみたり、お願いがあるといってみたり、図々しい。

「家はすぐそこなんです、荷物持ってもらえませんか?」
「はあ……」

……まあ、いいけど。
北野森は彼女の買い物袋を持って立ち上がった。

「本当にすみません……」
「いいえ、お客様ですから」
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