派遣先の研修
耳を覆いたくなるような体験を聞き終えて、彼女の手を取った。
外に出ましょう、と玄関を閉める。

「おうちは何処なんですか? 実家は」
「実家……?」
「思い出してください。一人暮らしだったんですよね? あなたは、どこからいらしたんですか?」

何ができるかはわからない。
それでも、彼女をこの町においておくわけにはいかない。

「……海。海のそば」
「東京都でしたか?」
「……」

彼女の故郷の地名を聞き取り、北野森は派遣会社に電話をかけた。
誰か別の人に来てもらうことして、翌日の予定をキャンセルした。

「車でお送りします」
< 35 / 68 >

この作品をシェア

pagetop