派遣先の研修
「あの事件……。当然、バイト先のコトブキ堂のことも調べた。しかし、殺され方が異常だったから、

怨恨か、あるいは性格異常者の犯行ではないかと思われたんだが」
「……当時、店に、彼女を恨んでいる人物は」
「いなかった。いい子だったらしいからな」

どうしてあんないい子が、殺されなければならなかったのか。

「凶器は綺麗に指紋が拭き取られていた。もっとも、火をつけられていたから、証拠隠滅をはかった

のは間違いないが」
「証拠は……」
「被害者の体から、加害者の体液は出た。目撃者はゼロだ」
「……鑑定できませんか?」
「何をだい? もう時効になっている事件を調べることはできないよ。それに私はもう退職しているん

だからね」

「犯人はイトウなんです」
「北野森さんといいましたね。幽霊の証言が証拠になると思いますか」
「……」
「『黒いワンピースの女』の噂があるのは知っている。それが、被害者なんだろうな、とは思う。しかし

、幽霊の証言では、警察は動けないんです」
「……そう、ですよね……」

「仮に、イトウが、殺したとしましょう。動機は?」
「好きだった、とか」
「なるほど。事件当日、コトブキ堂では、仕事の後に飲み会があって、イトウは出席している。その前

後に襲ったことは有り得るな。拒否されて、かっとなってやった」



……違う。
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