派遣先の研修
「被害者が自殺したとしよう。ならどうして、すぐに救急車を呼ばなかったんですか。すぐ病院へ運べば助かったかもしれない」
「……ユキが助かったら、私は結婚できませんでした」
「お互いの名前入りの指輪がありました。これは?」
「知りません。ユキが勝手に作ったんじゃないですか」
「そうですか。腹に包丁を刺した被害者を、見殺しにしたんですね。その上で、目玉をくり抜いて、アパートに火を放った」
「……」
「性格異常者の犯行にみせかけるため、証拠隠滅のために」
「……そうです……」

イトウは笑っていた。

「素直に別れてくれればよかったんです。ユキは今頃別の男と結婚して幸せだったでしょうに。あの女がすべて悪いんですよ」
「それをアンタが言うかね。しかも、寺に放火、盗みに入るとは……。寺にたまたま泊まりにきていた青年は、今、病院で危篤状態です。これで彼が死んだら、あんたは一生、刑務所だろうね」
「……」
「今までやったことを素直に白状することですね」
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