ラストメッセージ
第十四章 夢の中で
薄暗い部屋の中、隣で眠る美乃を見つめていた。
彼女との幸せな時間も、明日になれば終わってしまう。


美乃が生きていてくれるのなら、入院したままでも構わない……。


溢れ出す不安や切なさに耐え切れず、あまりにも傲慢で最低なことを考えていた。
結局、俺の行動は美乃のための優しさじゃなくて、自分自身のための優しさで、そんな身勝手さに呆れながらも満たされている最低な俺もいる。


菊川先生が外泊を許可したのは、きっとみんなから頭を下げられたからじゃない。
もちろんそれもあるとは思うけれど、もう美乃が長くないという宣告を、暗にしているんだろう。


俺は、幸せな夜に不幸な未来を考えながら不安に襲われ、苦しんでいた。
今、目の前には美乃がいるけれど、明日になれば俺はひとりになるかもしれない。


この感情は、不安や孤独なんかじゃない。


恐怖、か……。


「ん……。伊織……」

「どうした?」


不意に声を掛けられてハッとしたけれど、美乃はなにも答えない。
彼女の頬に触れ、ふっと苦笑を零した。


「なんだよ、寝言かよ……。お前さ、今どんな夢見てんの? 俺の夢? ……なんてな」


独り言の囁きが、薄暗い部屋の中に溶けていく。


「なぁ、美乃……。お前、夢の中ではちゃんと幸せか……?」


刹那、俺の目から涙が溢れ出した。
声が漏れないように唇を噛み締めても、喉の奥から込み上げる熱が嗚咽に変わる。


「……っ! ……っ……」


どんなに泣いても涙は止まらず、ただただ泣き続けた。
こんな泣き方をしたのは、生まれて初めてだった。

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