ラストメッセージ
ある日、美乃の体調がいい時があった。
俺たちは、久しぶりに色々なことを話した。


「ねぇ……」

「ん?」

「今日は体調がいいから、外に出れないかな……?」

「どうだろうな…」

「外に出たい……」


曖昧な返事と笑顔で誤魔化すと、珍しく彼女が食い下がった。


「伊織と散歩がしたいの……」


弱々しく、だけどはっきりと自分の気持ちを訴え掛けてくる美乃に、つい頷いてしまう。


「わかった。内田さんに言って、先生に訊いてくるよ」


小さく笑った俺は、ナースステーションにいる内田さんに事情を説明し、菊川先生を呼んでもらった。
病室に来た先生は、難しい顔をしながら俺と美乃の話を聞いていた。


「僕としては賛成できないね……」

「先生……。ちょっとだけでいいから、お願い……。どうしても行きたい……」


申し訳なさそうな菊川先生に、美乃は少しだけつらそうにしながらも必死に頼み込んだ。


「俺からもお願いします。ほんの少しの時間でいいんです」

「先生、許可を出していただけませんか? 私も付き添いますから」


簡単に許可を出せないことは重々わかっていても、頭を下げずにはいられなかった。
内田さんも頭を下げてくれ、先生はしばらく考え込んだあとでため息を落とした。


「わかった……。十五分だけ車椅子での外出を許可するよ。外は寒いから、暖かい格好をして行くように。内田さんも付き添ってあげて」


「ありがとうございます」


俺と美乃は、笑顔で声を揃え、すぐに支度をした。
そして内田さんに付き添ってもらい、俺たちは病院の外に出た。

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