ラストメッセージ
車に乗り込むと、美乃の好きなアーティストの音楽をかけた。
後部席では、信二と広瀬が楽しそうに話している。
デッキから流れる曲が、俺たちの気持ちを盛り上げる。


「いっちゃん、今日は眼鏡なんだね。視力悪いの?」

「ああ……。運転する時だけ掛けてるんだよ」


俺は、少しだけ視力が悪い。
普段は差し支えないし、眼鏡は嫌いだからできれば使いたくないけれど、コンタクトが合わなくて仕方なく眼鏡を掛けている。


「いっちゃん、眼鏡似合ってるよ!」

「……そうか?」

「うん! 萌えちゃう!」

「はぁ? なんだよ、それ」

「萌え〜だよ!」

「ますます惚れたってことか?」

「それは前からだよ」


こんなやり取りで幸せになれる単純な俺は、美乃の言葉で眼鏡を掛けた自分がそんなに嫌いじゃなくなった。


「おい、前のふたり! イチャイチャするなよ!」


広瀬と話していた信二が、突然後ろから身を乗り出した。


「危ないだろ!」

「俺から可愛い妹を奪っといて、なぁーにが『ますます惚れた?』だよ! このヤンキーめ!」

「なんだよ、ヤンキーって!」

「親父がそう言ってた!」

「はぁ⁉」

「うん。パパは、『茶髪はヤンキーだ』って言うの!」


美乃がその時のことを思い出すように、クスクスと笑う。


「えっ……」

「染井は茶髪にピアスだから、完全にアウトだよね〜!」

「パパがありえないんだよ! 今時、茶髪くらいでヤンキーなんて……」

「そうだよなー! それじゃあ、世の中ヤンキーだらけになるし」


美乃と信二は呆れたように笑い、広瀬も後ろで楽しそうに笑ってたけれど、俺は不安になった。
美乃の両親にはいつも気遣ってもらっているけれど、本心ではあまり印象がよくなかったのかもしれない。

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