ラストメッセージ
「そろそろ病院に戻ろうか」

「そうね」

「充分楽しんだもんな!」


俺が促すと、広瀬と信二が楽しい雰囲気を壊さないように気遣ったのか、明るく頷いたけれど……。美乃だけは、黙って俯いてしまった。


「……帰る前に訊きたいことがあるの」


それから程なくして、彼女が真剣な眼差しで切り出した。


「どうしたの?」


広瀬に微笑まれ、美乃は少しだけ迷ったあとで言い難そうに口を開いた。


「あのね、前から思ってたんだけどね……。ふたりは……結婚、しないの?」

「急にどうしたんだよ?」

「そうよ、突然どうしたの?」


彼女の雰囲気から深刻な話なんだろうとは思ったけれど、予想外の言葉だった。
驚きながら訊いた信二に続いて、同じような様子の広瀬が笑う。


「だって、ふたりは高校の時から付き合ってるのに、全然そんな話をしないじゃない。だから……もしかして私のせいかな、って……」


小さく話した美乃が、悲しげに眉を寄せた。
信二と広瀬は困惑していて、言葉を探しているようだった。


俺達は、今年で二五歳になる。
男の信二はともかく、女の広瀬なら少し早いかもしれないものの“結婚適齢期”とも言えるだろう。


俺は今まで結婚したいと思った事はないし、そんな相手もいなかったけれど、信二と広瀬は違うだろう。
もうずっと一緒にいるし、この先もきっと一緒だと思う。


もし、ふたりの結婚に障害になる事があるとしたら、たぶん美乃の事だ。
なにも答えないふたりを見て、そんなことを考えてしまった。


しばらくして口を開いたのは、広瀬だった。


「私は信二が好きよ。今までずっと一緒にいたし、これからも一緒にいたいと思ってる。信二以外の人といる自分なんて、全然想像できないしね……。でも……結婚ってなると、やっぱり違うんだ」

「どうして? なにが違うの?」


小さく紡いだ美乃に、広瀬は小さく笑った。

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