ラストメッセージ
このあとはみんなで食事をする予定だったけれど、俺は美乃を連れて一足先に病院に戻ることにした。
車に乗るなり、彼女はぐったりとした。


「ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかな……。私に合わせてもらうことになってごめんね、いっちゃん……」

「バカ。そんなこと気にしなくていいから寝てろ」


美乃は心配を掛けたくない一心で、みんなの前では無理していたらしい。
俺だけにはつらさを隠さずに見せてくれたことに嬉しさを抱きながらも、周囲を気遣う彼女の優しさが無性に切なかった。


エンジンを掛け、病院まで車を飛ばした。
助手席でぐったりしている美乃を見ると、不安で仕方ない。


「すぐ着くからな?」


何度もそう言って、助手席の様子を窺った。
その度に微笑む美乃を見て、愛おしさと切なさが増す。


「俺の前では無理するな……」


俺は、そんなありきたりなことしか言えなかった。
病院に着く頃には彼女の顔は真っ青になり、自力で歩くのも無理な状態だった。


「車椅子、借りてきてくれる……?」


美乃の言葉に首を横に振って、彼女を抱き上げる。
病室に向かう途中、ナースステーションで内田さんに声を掛け、すぐに菊川先生を呼んでもらった。


「ありがとう……」

「もうすぐ先生と内田さんが来るからな……」


ベッドの中で弱々しい声で呟いた美乃を励ますように、優しい笑みを見せる。
菊川先生と内田さんは、すぐに病室にやって来た。


診察をしながら点滴を付ける先生の顔は、少しだけ強張っていた。
内田さんも、黙々と血圧や体温を測っている。


素人の俺にもわかる、ピンと張り詰めた空気。
息ができなくなりそうだった。


ぐったりした美乃、強張った顔の菊川先生、黙々と作業をする内田さん。
傍で見ていただけの俺が、一番緊張していたかもしれない。

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