短編集

まだなにか……。
不機嫌を隠さず振り返れば困った顔した穂積くんが口を開いた。

「えっと傘は？まさかそのまま」
「走って帰る気だけど」

至極あっさり言った私に、風邪をひくだの危ないだの言って引き止めてきた。自分の傘を貸すとまで言って。

それは丁重にお断りしたけど。

意外と穂積くん頑固で帰らせてもらえない。

「藤倉頑固だなぁ」

「それはそっちでしょ。だいぶ雨も弱まったし、いい加減帰らしてよ」

「それはダメだって。女の子なんだから」

「そういう言い方嫌い」

「えっ？」

「違いは確かにあるけどなんかその言い方は嫌いだな」

そういうので区別されるのは癪にさわる。

「そう、だよね。言い方が悪かった。俺が心配だから一緒に帰ろう？」

「!!」

まさかそう言われるとは……てか一緒にって。

「うん。藤倉は傘受け取ってくんないし、駅まで一緒に行くしかないかなってね」

「いやいやいやいや」

さすがに恥ずかしいでしょ、それは。

「もう決定だから。さ、行こう」

「えっあ、ちょっ!!」


結局引っ張られるままに駅まで一緒に相合い傘で行った。あの恥ずかしさはハンパない。

だから顔が赤くなったのは相合い傘が恥ずかしかったからであって。
“また明日”と言って笑ったアイツの顔を見たからでは断じてない。




雨の日も悪くないかな。




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