MIYUKI
青い空ときみと猫
 彼女が飛ぶときは、いつも僕の前に現れて僕に触れていく。
 ぽんと肩に手を乗せるだけのときもあれば、いきなり抱きついてきたり・・・。
 この間なんて、スクールで声をかけてきたちょっとかわいい女の子とのデートの最中に現れたかと思ったら、抱きついた上にキスまでして去っていった。
 おかげでその娘とはそれっきり。
 だから、授業をサボって屋上で昼寝をしている僕の前に突然現れたときも、たいして驚きはしなかった。

「今度は何処に飛ぶのさ、」
「4年前の東京。」

 ぶっきらぼうに答えた彼女のきれいな横顔は、フェンスの向こうに広がる青い空をまっすぐに見つめていた。

「ふぅん、じゃ俺はそのころ中等部だな。」

 仰向けに寝転がったまま、首筋でそろえた彼女の髪が、そわそわと風に遊ばれるのを見つめていた。
 彼女は十五のときに目覚めたタイムスリップの能力を活かして配達屋の仕事を請け負っていた。この星ではそういった能力を持っている人が少なくはなく、大抵は成人前に目覚めた能力に見合った仕事に就いていた。
 彼女の未来の情報によると・・・本当は一般の人にこういう事を教えてはいけないらしいけど…僕ももうすぐ彼女と同じ能力に目覚めて、彼女のパートナーに昇格するらしい。

「みゆきちゃん、元気、」
「え、」
「猫の、みゆきちゃん。」

 隣にちょこんと腰を下ろした彼女は、転がっていた軽石で猫の顔を描きだした。

「だーから、今はシャムって名前に改名したんだってば。」
「シャム猫だからシャム、」
「そうだよ。」
「単純。」

 むくりと起き上がった僕のふてくされた顔を覗き込んで、彼女はくすりと笑った。

「いいじゃない、みゆきで。」
「なんで、おまえがやめろって言っ」
「いいのっ、今日から改名、みゆきちゃんねっ。」

 僕の飼い猫に二度目の改名を無理矢理決定した彼女は、床に描かれた猫の下に『MIYUKI』と書き足す。

「おまえがいいなら、いいけどさ。」
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