MIYUKI
青い海と空の向こう
「配達屋さん、これを、頼むよ…」

 年を重ねた事が一目でわかるほど痩せたその手で、初老の男は一通の封筒を差し出した。

 その封筒はとても手触りの良い和紙で出来ていて、真っ白なそこに、楓をあしらったスタンプで封をしてあった。
 厚さから察するに、中味はほんの一、二枚…いや、もしかしたら入れ忘れたのでは?と思うほど薄くて軽かった。
 しかし、男の目は微笑みの仲にも確かな強さが感じられる視線で、この男がきっとそんなミスはするはずがない、そう正直に受け入れさせることの出来るような目だった。

「かしこまりました。では、これを5年後の、あなたの息子さんのもとに、確かにお届けいたします」

 わたしはそう微笑んで手紙を胸元へ引き寄せると、目を伏せながらしっかりと頭を下げてお辞儀した。
 わたしにできる誠意の、精一杯の表現を、この男に伝えたかったのだ…。


 わたしは配達屋の仕事をしている。
 族に言うタイプスリップ―時空移動の能力を活かして、その仕事で収入を得ている。
 今の世の中、そう言った特殊な能力を持っている人間が少なくはなく、自分の能力を生かせる仕事が色々と用意されていた。
 ―読心能力を活かした探偵事務所や、空間移動能力を活かした旅行会社などがある。

 わたしが今回担当する事になった、この初老の男は、病に侵された自分の命が長くない事を悟り、愛する息子へ宛てた手紙を届けてほしいとの依頼だった。
 配達屋は、過去へも、未来へも飛ぶ。現代からの距離や運ぶものの内容によって定められた価格がある。
 大抵は、過去も未来も五年以内の依頼が多い。区切りとして、人は5という数字を選びやすいのであろう。
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