REVERSI
『偶然』って怖い。
…ううん、もしかしたら、万が一、本当はこんな日が来るかもしれない、って思ってたあたしはズルい。こんな偶然に出会う何分かの1の奇跡で、物語って始まるんだ。
グレイの上等なロングコート。長身のその人の動きは優雅で、ひとつひとつの動作に見入ってしまう。シャープな顔のライン、二重瞼の瞳は綺麗な曲線を描いて、だけど神経質そうで涼しげ。そして、見間違える筈がないのは、目尻の小さな泣きボクロ。
その瞳が一瞬だけ、驚いたように開かれて、だけどすぐに冷静さを取り戻す。
「聖、…か?」
漏れるように呟かれた低い声に、心臓が掴まれたみたいに、ドクン、と悲鳴をあげた。