REVERSI
あたしはすぐに返事が出来なくて、その代わり小さな笑みを作った。
ギュッと指先に力が入る。
落ち着かない鼓動を悟られないようにするのが精一杯で、
「…お久しぶりです」
やっと出た声は、自分でも驚く位、何の抑揚もなかった。
彼は、綺麗な女性を連れていて、あたしを見たのはその一瞬ですぐに奥の席へと足を動かせた。
「あれ、知り合い?」
もしかしたら、マスターのその疑問文の方が早かったかもしれない。
「ええ、まあ」
曖昧に言葉を濁して、あたしは視線をグラスに落とした。
「だれ?」
京ちゃんの声が続く。あたしは京ちゃんの方を向けなくて、マスターにその答えを委ねた。