REVERSI
麻由の住むマンションには、一度だけ引っ越して間もない頃にお邪魔した。その時からしばらく経ったし道程は曖昧だったけど、何とか目的の場所までたどり着いた。
扉を開けて迎えてくれたのは、やっぱり変わらない笑顔。嬉しそうに『上がってよ』とあたしの手を引いて、リビングへ通してくれた。
「あ、ゴウ君はね、いないから。帰って来ないからゆっくりしてね。何なら泊まって行ってよ」
麻由が明るい振る舞いであたしにカラカラと笑う。ゴウ君、は旦那さんの名前だ。さらりと『いないから』なんて言ったけど、あたしはどうその笑顔に応えたらいいのか、頭を掻いた。