REVERSI

からかわないでよ、と言いたい所だけど、更に甘い言葉を吐かれた時困るから口を結んだ。本当にタチが悪いったら。
なんだかな、こんな普通に会話してるのに、距離が近い気がして居心地悪い。いきなり、そんな甘さの滲む瞳とか、勘弁してよ。

「あのさ、」

あたしは、言わなくちゃいけない事を頭で整理する。京ちゃんが濡れたグラスを指先で拭いてあたしを見上げた。


「…会わない、って言ったけど、撤回して良い?」


マッキーとの会話が頭を過ぎる。このままで良いなんて自分勝手もいいとこだ。あの時『もう会わない』と言った気持ちに嘘はないけど。このまま連絡も取らず、何となく終わらせるのも大人のズルさかもしれないけど。それで良いのか、あたし。ごめん、も、ありがとう、も言えてない。

おずおずとその瞳を覗くけど、京ちゃんは、何の感情も見せない。



「『久瀬』さん?」


そのくせ、あっさりと名前を出す。


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