REVERSI
背を向けた麻由は涙を拭いもせず扉の向こうへ走った。
振り返らない小さな背中。
残されたのは、あたしと京ちゃん。
京ちゃんがあたしを覗いたのが分かる。困惑したそんな表情もまるわかりだ。
「…追いかけないの?」
あたしは今まで麻由が居た場所から目を離さず京ちゃんに向けて聞いた。
「…追いかけない。麻由も目が覚めたでしょ。聖の言葉に何も言い返せなかった。『計算高いぶりっ子』って、凄い言葉だよね?」
京ちゃんが皮肉を込めた目であたしの頬を見る。冷たい指先が愛しそうに触れた。
「…何も言えなくていいんだよ。京ちゃんがいるのに、あたしにだけ向かい合った麻由が計算高い訳ないじゃん」
あたしは京ちゃんの手を振り解いて、その瞳を見上げた。