REVERSI
なんで、って、いや、もう、焦る。なんとなく頭を抱えたくなるその微笑に、度胸というか理由が無いです。と告げたい。
「この間、私と久瀬さんホテルにいたの」
意味ありげにあたしを見る貴子さん。それよりも一瞬で背筋に何か走った。
「って言っても両親も交えてだけど。これからの事をね?話す為よ。結婚式についてとかかしら。私の父って政治家なのよ。忙しい人だから都合か、合わなくて」
優雅にカップを持つ指先に、他人事のような口調がアンバランスで、それを見つめながらこの窒息してしまいそうな息苦しさに気付いた時、やっと現実感があたしを襲った。
「だけど彼、結婚する気なんてサラサラないんですって。私はね、もう久瀬さんで良かったの。良い男だし、好条件。それに理解があるわ。多少遊んだ所で干渉はしない良い関係を作れる筈だと確信してるんだけど」
全て断定された事のように話す貴子さんにあたしはまるで、彼女の言いたい事が理解できなくて自分の馬鹿さ加減に呆れる。
「父も同じよ。別に愛のある家庭を築いて欲しい訳じゃない。資金と企業への結び付きが欲しいだけ。久瀬さんの所もそうよね。後ろ盾になればよし。」
あたしは馬鹿みたいに、花柄の白いカップから上る湯気を眺めていた。