REVERSI
「久瀬さんってミスが無いの。完璧だわあの人。それこそ精密機械みたいに。彼、結婚する気ないでしょう?だからいつも『婚約者』とは名ばかりだっていう態度崩さなかったの。だから、将来を見据えた場で失態なんて起こすはずがない。なのに、」
貴子さんはフゥと息を吐いた。
「たった一本の電話で話を丸投げして出ていくんだもの」
有り得ないわよね、と続けた言葉。
痛い、体が、痛くて。
それが、もしかしたら、いや、あの日を指すのは言わなくても分かる。
「急に席を外したせいで、久瀬さんが隙なく拒み続けた結婚がまとまったわ」
貴子さんは何の興味の無い声で言った。