REVERSI
貴子さんが「は?」と声を出さず、口許だけ動かせてこれ以上ない位不審な目であたしを見る。
「私みたいにだらし無いと、あなたみたいな人は正直疲れます。だけどその分羨ましい。真っ直ぐじゃなくても良いじゃないの、と言われてるみたいです」
貴子さん、という人をよく知らない。だから貴子さんもあたしを知らないはずだ。それなのに何だろう、この人とは一緒に一晩中飲んでみたいな、とか思う。
「…あなたって変ね」
貴子さんは呆れたように口を開いた。
「変、ですか」
「ええ、変。そんな事嫌味なく怯まずに言う人間なんて中々いないわよ」
「はあ」
「益々嫌いになったわ」
「残念です」
「媚びてるの?」
「え?あなたに媚びてなにか良いことがありますか?」
言い方も特に考えなかったのは失礼かな。だけど、貴子さんのその問いは本気で一瞬考えてしまった。