REVERSI
「…聖、か。」
低い声が単調に向けられて、あたしはビクっと反応する。
「名前、聞いておかなくて良かったな」
それは、どういう意味なのか。あたしはゆっくり顔を上げる。
「あたし、の事、知ってたんですか?」
それは気になっていた疑問文。一穂の兄なら写真とか見ていてもおかしくない。今更、どうでもいいけど。
絡んだ視線。やだ、泣きそう。
僚は、力を抜いたように笑う。
「言い方が悪かったな。すまない。…知っていた所でブレーキにはならない。名前は、今知ったから必要なかった。そういう意味だ。」
気が抜けるような、口調。
適わない。本当に。
何も変わらないんだもの。