「あんた2-Aの相楽透尚でしょ。まぢむかつく」

私は教師に頼まれて理科準備室に居た。
普段使わない部屋は埃っぽくて薄暗い。
なんだか昔の自分の家に居るみたいで怖い。
気持ち悪い。
早く立ち去りたいと焦りながら教材を探していたら後ろから声を掛けられた。
振り向くと見知らぬ女子が5人立っていた。
「まぢこいつが白井君の彼女とかむかつく」
「てか彼女なの?超地味で似合わないし」
「こいつ頭オカシイんでしょ?全然喋れないらしいじゃん」
口々に叫ばれる悪意に心臓が凍るかと思った。
全部正しいと思うから何も反論出来ない。
震えてくる体を抑える事しか出来ない。
「まぢキモイ。目障りなんだけど」
「ホント死んで欲しい」
きゃらきゃら甲高い笑い声。
耳が痛い。
立っていられなくて、耳を塞いでしゃがみ込む。
「被害者ぶってんじゃね~よっっ」
どかっ。
背中を蹴られる。
「あんたさぁ白井君に付き纏ってるだけでしょ、早く離れろよっ」
お腹とか、足を踏み付けられる。
上履きのゴムが肌に引っ掛かって痛い。
赤い痣が出来る。
「か、彼女じゃない…っ」
別に助かりたくて言った訳じゃない。
永久くんが誤解されて、こんな人達に悪態を付かれたくなかった。
「は!?彼女じゃない訳!?じゃああんたこのアト誰のな訳!?」
爪の長い手が伸びて、ワイシャツを思い切り掴まれる。
びっとボタンが取れてセーターが引き伸ばされて鎖骨まであらわになる。
鎖骨の下に散らばる赤いアト。
昨夜、それともその前の時のか。
永久くんが付けたアトだ。
慌てて制服を掴んで隠す。
「………っっ」
恥ずかしいのと恐ろしいので頭が混乱する。
「あんた白井君がいるのに違う男に手ぇ出してる訳!?」
違う。
喉が張り付いて上手く喋れない。
悪い癖。
すぐ怖がって何も出来なくなる。
「てかそれが白井君のだろうがこいつ彼氏でもない男とヤッてるって事でしょ」
一気に空気が冷えた気がした。
「まぢ安い女」
嘲笑が沸き上がる。
壁を挟んだ向こうの廊下は夏間近の明るい日差しが差し込んでいる筈。
それなのに彼女達の笑い声が耳に入る度に自分の指先からどんどん体温が奪われていくのが分かった。
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