夏
12
「そぅそぅ。静かにしてたら優しくしたげるからさ」
殴られてぐったりと力無く横たわる私に、耳障りな声が落とされる。
もう、何も考えたくないのに、口の中に広がる血の味が微かに意識をつなぎ止める。
なにが悪いのだろう。
どうして、ただ傍にいることを許してもらえないのだろう。
「もう抵抗やめてるしぃ、やっぱ誰でもいんじゃんコイツ」
「マヂきもいんですけどぉ」
「汚い女」
耳に膜が張ったように、遠い処で聞こえるような声。
汚い。
よく、養父や小学校時代の同級生に言われていたな。
養父に殴られていたことを思い出す。
あの頃も、ただ一方的に殴られている事を受け入れることしか出来なかった。
逃げる術も、何処に逃げていいのかも分からず、一人だった。
どうしたらいいのか分からなくて家にも、学校にも行きたくなくて。
ただ、お母さんに会いたかった。
ずっと、いつか殴られて死ぬまでこのままなのだと思っていた。
暗くて。
暗くて暗くて暗くて。
私を見てくれる人なんていなくて。
名前を呼ばれる事も無くて。
ただ、ひとりで、痛いまま。
消えていなくなると思っていた。