びくり。
なおの体が強張る。
TVのキャスターが雷を大袈裟に伝えるからだ。
なおは大きい音が嫌いだ。
今も震えを悟られないように、緊張してる。
羽夏が空気を察して部屋を出て行く。
だが黙って去る訳がない。
去り際の羽夏の台詞。
毎度毎度だがあいつ等本当に家事やる気ないのな。
俺もなおも嫌いじゃないし一緒に作るのが楽しくてつい、結局いつも手作りしてしまうのが要因の一つなのだろうけども。
餌付けする気とかなかったんだけどな。
注文多いし、態度でかいし。
まぁいなくなるならなんでもいい。
これでなおも遠慮しないだろう。
「…も帰ってくるからよろしくね」
一人も二人も同じだから早く行け。
むしろ分量慣れたはと聞かれてもないのに心中応える。
羽夏が背を向けると
「なお、おいで」
涙目でこちらを見詰め、一瞬羞恥で固まる。
でもいくら思案しても恐怖には勝てない。
羽のような軽さで飛び込んでくる。
どぉん。
俺には微かにしか感じれない落雷音にがたがたと体を震わす。
膝の上に乗せた白くて柔らかい存在を安心させるように抱きしめる。
なおは恐さからか正常な意識の時はまず無い、甘えた態度を取る。
離れまいといやだいやだと幼子のように首を振って縋り付くのだ。
「なお恐くないよ。おまじないしてあげる」
目の縁を赤くして見上げるなおの額にキス。
鼻の頭。
頬。
恐い音が消えるように、綺麗な髪をかき上げて右の耳に。
「なお、もう片方、耳見せて」
頬を押し付けるように抱き着いているので、左耳が隠れてる。
なおは顔を真っ赤にして恥ずかしがるが、おずおずと自分から左耳を差し出す。
「良い子だね」
かぷりと耳たぶを甘噛みする。
ひゃあと聞こえるか聞こえないかの声が上がる。
可愛い。
ぺろりと耳の中を舐めるとそのまま喋る。
息が耳に篭って気持ち良いんだよね、なお。
「次はどこキスして欲しい?」
いつの間にか雨は今だに振り続くけど雷は止んでいた。
関係ないけど。
なおが微かに聞こえる程度の掠れた声で、ゼンブ、と耳元で囁くから。

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