君の左手
声のした方に振り返った。
と、同時に滑り台の階段に鼻をぶつけた。
『…っつー!!…ぃたたた!』
さっき後ずさりをしたせいで、自分が思ったよりも距離が近付いていた。
憎い滑り台……。
これ以上鼻が低くなったら怨みます。
「お前何してんの?コント?」
赤くなった鼻を押さえたまま顔を上げた。
『あっ…。』
滑り台の上で、見下ろすように立つアイツ。
今日も…、憎らしい程の笑顔で、目を細めて笑ってる。
喉の奥からくる熱い物。
急に心臓の音が早くなって、口を開いたら飛び出しちゃいそうだった。
『そっちこそ…。何してんの。』
「俺?んー…、犯人は必ず現場に戻るって言うじゃん?!」
ドキっとした。
唇を緩めて笑う笑顔に、完全にやられたって思った。
なんかアユミ… 変だよ。
変な奴にドキドキするなんて、頭が洗脳されちゃったのかな。
『犯人って誰の事よ…。
あんたおかしいんじゃない。』
早口で話して下を向いた。
このドキドキを隠したくて、滑り台を急いで横切る。