君の左手
どんなに掛けられても出る事が出来ないよ


だって、今お母さんと話したら酷い言葉を浴びせるの

…わかるもん





鳴りやまない携帯を見つめて静かにポケットへ閉まった










「おい!!」



外灯のない滑り台から男の声


さっきまでなかった恐怖が一気に押し寄せてくる




体を強張らせたまま暗闇を見つめると…―







自分と同い年位の男の子が立っていた


背丈はアユミよりはあるかな?

細身で短髪、切れ長の瞳が刺すような視線を送っている




『はっ?何!!』



震える拳を握り怖がっているのがバレないように睨み付けた


中学の頃、相当悪さをしてきたせいで喧嘩には慣れている




ただ、相手が男だと話は別だ





どんどんと近付いてくる男


泣いていたのが気付かれないように急いで涙を拭った





そして―――





アユミの目の前に立った時、見上げた顔にはさっきの鋭さはなかった


男の後ろから月の光が照らして表情がよくわからない



でも……



不思議と怖さは消えていたんだ
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