僕等がみた空の色






「泣いて、いいよ。」



藍がゆっくり離れていく。

あたしの肩を掴んだまま、まっすぐ瞳を見てくるから。



泣きそうになった。





「な、泣けないよ。あたしが泣いたら、きっとアオのこと忘れちゃう。」



涙がこぼれ落ちるのと一緒に手の平からすり抜けていっちゃうようで。




俯いて唇を噛み締めていたら、肩からふっと温もりが消えて、不安になって顔をあげた。




「藍……?」


藍は立ち上がると、壁に立てかけてあった長方形のケースのようなものを手に取った。




「あの日、六花が知りたかったこと、教えてあげるよ。」


そう言って、ケースを開けて――――バイオリンを取り出した。




そこで、あの日が3回目にここに来たときのことだと気づいた。

そして、知りたかったこととは、前の日の夜に藍が何をしていたかということ。




「…あ、あの音、バイオリンの音だったんだ……。」


誰にともなく呟く。

だから聴き覚えがあると思ったんだ。




待ってな、と言うと、藍は軽くチューニングをし始めた。


ひとつの音を、伸ばしただけ。



それだけなのに、ただ単純にきれいだと思った。

果ての知らない、どこまでも伸びていきそうな透明な音。




微調整をしてバイオリンを構える。


その姿がとても絵になってて、ひとつの彫像みたいで。


でも、なんだかすごく儚くて、消えてしまうんじゃないかって、怖くなった。






紡ぎだされるメロディー。











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