僕等がみた空の色
「俺は、楠(くすのき)六花っていいと思うけど」
この曇り空に似つかわしくない、無邪気で明るい声で言う。
突然自分の名前が出たことに驚いて思わず大事な朝食から手を離しそうになる。
そいつのいきなりの発言に周りも一瞬黙る。
「そりゃ、美人だとは思うけど…」
なぁ、と遠慮がちに周りに同意を求める。
「ん…、なんか、笑わないし、怖くねぇ?」
その通りだと思う、と自ら同意した。
そもそも自分から人と、特に男の人とは距離を置いてるんだし、傷つくことなんかない。
だけど、気持ちが良くはないのは確かで、食欲なんか一気になくなった。
気付かれないようにここを去ろうと思い立ち上がると、またそいつの声がした。
「話したことないのに決め付けんなよー。それに、笑うと絶対、可愛いって!」
あたしは面食らって、思わずそいつの顔をばれないように見た。
まばゆい笑顔に、一瞬目を奪われる。
「藍(らん)、どーしたんだよ」
「お前、そんな気に入ってんだ」
仲間になだめられ、そいつは、結城(ゆうき)藍は、だって、とつぶやき大人しくなる。
立ち去るタイミングもつかめず、いや、一人なんだからタイミングも何もないんだけど。
なぜか足が動かせなくてその場に留まってしまったけど、その話題はそれっきりで。
でもまだ心臓がドキドキしてる。
あの、笑顔がどうしてか離れない。