赤い月 青い太陽
今日はよく冷えること・・・。

『残暑厳しい毎日、いかがおすごしか? 』

彼からの久しぶりの便りには
そう書いてあったが、
ギラギラした日差しも、
寝苦しい夜も、
今年はまだ体感できていない。
 
 喜ばしくは思うが、珍しい。
 
目を瞑り、向かってくる風たちを吸い込んだ。
湿った冷気が体中に浸透する。

嵐の前兆。

空には小さな星たちが懸命に輝き、
またその光を遮る雲の流れが速い。
 
 まるで、人の一生のようだ。
 
下界を見下ろせば、
煌々と眩い光が闇を打ち消そうと躍起になっている。
 
 うむ、悪くない。
 
交わる命のせわしないこと。
だからこそ、一つ一つの苦しみや幸せが愛おしく感じるのだ。
けっして軽くはない物語があの生命の輝きに、必ず存在する。
 

 感傷に浸りやすくなったのは、年のせいだろうか・・・。
 
 
さて、そろそろ行くとしよう。
時間もあまりないのだから。
 
自分の背中を自分が押す。
誰もこの背に手を伸ばしてくれないのだから、
仕方がないだろう?
叱咤激励を繰り返す自分と、相棒・・・

 といっても、誰もいないのだが―――。

やはり長く行き過ぎると良くない。
心の中の自分と対話できるようになってしまった。
年は取りたくないものだな。
 

両手を広げ、闇たちを抱きしめる。
こんなことをしても始まらない。
また終わりもしない。
この気持ちを癒してはくれない。
それが分かっていても、自分を止める事ができない。
滑稽で、口の端が引き攣った。
 

 さあ、いこう。
 


身体が宙を舞う。
光の群集が視界いっぱいに広がる。
でも、自分を迎えてくれるのは、
愛しくて馴染んだ闇。
 


天と地の区別がつかなくなりながら、
黒い服の男は、


落ちていった。


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