Devil†Story
「ッ…!ハアッ…ハァ…ハァ…」
解放されたとはいえ、その余韻が残っていたヤナは息を整える。
「……どういうことだ。…この俺が判断を見誤ったとでも言いたいのか」
冷たく重圧感のある声で問い掛けてくる。黎音の機嫌を損ねる前に答えを言わなければ、状況が変わらない。その事を理解しているヤナは起き上がりながら答えを述べた。
「いえ…黎音様の判断について…お話ししているわけではございません。従来通りのキシでしたら…可能だったでしょう。しかし……キシは転生直後であの体には慣れておりません。…もちろんあの姿故に…出来る事もあるかと思いますが……今のキシは50%の実力も出せないかと思います。現に…先程俺を運ぼうとしたキシは青年の姿になる事が出来ませんでした」
「…………」
黎音は何も言わず凍てつく様な冷たい目でヤナを見ていた。
「あの少年は……何か特別な能力を持っている様です。血への執着心が……我々吸血鬼と差して変わりませんでした。また…トランス状態になってからの彼の血がかかった場所の怪我が……今尚俺に残っています」
「!」
その言葉を聞いた黎音は僅かに目を見開いた。
「……彼の力は未知数です。キシが彼と対峙した際……その能力が開花してしてしまえばキシに勝機はないに等しいと思われます」
「……だからキシではなく失敗したお前に機会を与えろ…そう言いたいのか」
「いえ。黎音様の元にあの少年をお連れするのが最優先です。今更………負け犬である俺がそれをお願いするのはおこがましい…事は承知しております」
本来ならその言葉を使う事は屈辱的であったが、必死に自身のプライドを捨て黎音が納得する言葉を紡いでいった。
「……ようやく自身の脆弱さを理解した様だな。ならば処分を受けると言う事か」
「……もし許されるのならば…俺に彼の契約者である悪魔の調査をさせてはいただけないでしょうか」
「……何?」
「彼の契約主である悪魔は…その辺りにいるような悪魔ではございません。一度その悪魔が殺気を出していた場面に遭遇したのですが…とても俺達では叶わないと本能に訴えかける程の強力なものでした」
「……それがどうした」
「もし仮に今回のターゲットが黎音様の元へお連れできた場合、自ずとその悪魔も着いてくるでしょう。もしその悪魔が抵抗してきた場合の対抗策を練っておいても損はないのではないでしょうか」
「…契約者である人間に負けたお前が、その契約主の悪魔に対抗出来るとでも?」
「今の俺では歯が立たないでしょう。ですから…一度外出を許可できないでしょうか?その際に…我々の"美酒"を持ってきたいと思います。万が一…キシが失敗した場合の対策にもなり得るかと思います。しかし…もし…今、俺が言った事が現実とならずに少年と悪魔双方をキシが連れてきた場合は…その時は……報いを受けるつもりです。ですから……どうか調査させていただけないでしょうか。……この通りです」
ヤナは左手から痛みを感じながらも地面に両手をつけた。そして一瞬躊躇したものの、そのまま額を地面につけて懇願し始めた。
「…………」
黎音は変わらず冷たい目でヤナのその様子を見ていた。
ーークソッ…本当はこんな奴にこの俺が懇願するなんてしたくないのに…!
ヤナは必死に自身の本心を見抜かれないように強く地面に頭をつけていた。
「………そこまで言うのならいいだろう。あいつの手掛かりになりそうな情報を持ってきたのもお前だからな。…もう一度だけ挽回の機会を与えてやろう」
奴の言葉に一先ず安堵する。
「……ありがとうございます」
「それで?その美酒はどの位持ってくるつもりだ?」
「はい。美酒の方は1〜2本持ってくるつもーー「足りんな。5本は持ってこい」
「!?」
被せるように言ってきた黎音の言葉にヤナは動揺した。
「5本…ですか?しかし……アレは1本でもーー。ッ!?」
ヤナが最後までその言葉を言う事は叶わなかった。何故なら黎音が折れているヤナの左手首を思い切り踏みつけてきたからだ。
「いっ…ッ!!」
「…貴様はこの俺を侮辱してるのか。一度挽回の機会を与えてやってると言うのにまだ意見してくるとは身の程を弁えろ。…俺が持ってこいと言ったら肯定の言葉以外受け付けない。それで貴様がどうなろうとも俺の知った事ではない」
「ッ…!!」
上からの圧により治り始めていた左手首の骨は再度折り砕かれてしまった。痛みに顔を歪ませる。すぐに返事をしないヤナに切り捨てる様な言葉を投げ掛ける。
「……それともなんだ。貴様の代わりにあの女にそれを飲ませて戦わせようか」
「ッ…!!」
あの美酒の効果を知ってるのにも関わらず、そのような発言をした黎音の顔を思わず睨みつけてしまった。
「……まだそんな目をするのか。だったら今すぐ殺してやっても良いんだぞ」
「ッ……!」
俺は目を伏した。…ダメだ。今は逆らえない。落ち着け……。目を閉じて自身を落ち着かせたヤナは「……申し訳ございません。ご命令通り…お待ちいたします」と痛みで顔が歪みつつも謝罪した。
「…それでいい。あの女が大事なら…。どうすべきか考えるんだな」
スッと奴は足をどけた。
「お前は俺の言う通り動いていればいいんだ。
たかが、“犬”が飼い主に牙を向く等…甚だしい。………まあ良い。俺は少し“あっち”に用があるから行ってくる。分かったらさっさと部屋に戻れ。これ以上部屋を汚されたらたまらないからな」
そう言い残し奴は暗闇の中に消えていった。静けさを取り戻した部屋でヤナは頭を上げた。
「畜生……!」
バンッ!
誰も居なくなった部屋の中で、左手で床を殴り付けながら俺は歯ぎしりをした。
あんな奴の言いなりになるなんて…!でも、今は…まだ……。
「クソッ!」
立て続けに起こった出来事に屈辱感が残る中、それでも黎音の言いなりにならなければならない現実に惨めさを抱いていた………。
【第3夜 完】
解放されたとはいえ、その余韻が残っていたヤナは息を整える。
「……どういうことだ。…この俺が判断を見誤ったとでも言いたいのか」
冷たく重圧感のある声で問い掛けてくる。黎音の機嫌を損ねる前に答えを言わなければ、状況が変わらない。その事を理解しているヤナは起き上がりながら答えを述べた。
「いえ…黎音様の判断について…お話ししているわけではございません。従来通りのキシでしたら…可能だったでしょう。しかし……キシは転生直後であの体には慣れておりません。…もちろんあの姿故に…出来る事もあるかと思いますが……今のキシは50%の実力も出せないかと思います。現に…先程俺を運ぼうとしたキシは青年の姿になる事が出来ませんでした」
「…………」
黎音は何も言わず凍てつく様な冷たい目でヤナを見ていた。
「あの少年は……何か特別な能力を持っている様です。血への執着心が……我々吸血鬼と差して変わりませんでした。また…トランス状態になってからの彼の血がかかった場所の怪我が……今尚俺に残っています」
「!」
その言葉を聞いた黎音は僅かに目を見開いた。
「……彼の力は未知数です。キシが彼と対峙した際……その能力が開花してしてしまえばキシに勝機はないに等しいと思われます」
「……だからキシではなく失敗したお前に機会を与えろ…そう言いたいのか」
「いえ。黎音様の元にあの少年をお連れするのが最優先です。今更………負け犬である俺がそれをお願いするのはおこがましい…事は承知しております」
本来ならその言葉を使う事は屈辱的であったが、必死に自身のプライドを捨て黎音が納得する言葉を紡いでいった。
「……ようやく自身の脆弱さを理解した様だな。ならば処分を受けると言う事か」
「……もし許されるのならば…俺に彼の契約者である悪魔の調査をさせてはいただけないでしょうか」
「……何?」
「彼の契約主である悪魔は…その辺りにいるような悪魔ではございません。一度その悪魔が殺気を出していた場面に遭遇したのですが…とても俺達では叶わないと本能に訴えかける程の強力なものでした」
「……それがどうした」
「もし仮に今回のターゲットが黎音様の元へお連れできた場合、自ずとその悪魔も着いてくるでしょう。もしその悪魔が抵抗してきた場合の対抗策を練っておいても損はないのではないでしょうか」
「…契約者である人間に負けたお前が、その契約主の悪魔に対抗出来るとでも?」
「今の俺では歯が立たないでしょう。ですから…一度外出を許可できないでしょうか?その際に…我々の"美酒"を持ってきたいと思います。万が一…キシが失敗した場合の対策にもなり得るかと思います。しかし…もし…今、俺が言った事が現実とならずに少年と悪魔双方をキシが連れてきた場合は…その時は……報いを受けるつもりです。ですから……どうか調査させていただけないでしょうか。……この通りです」
ヤナは左手から痛みを感じながらも地面に両手をつけた。そして一瞬躊躇したものの、そのまま額を地面につけて懇願し始めた。
「…………」
黎音は変わらず冷たい目でヤナのその様子を見ていた。
ーークソッ…本当はこんな奴にこの俺が懇願するなんてしたくないのに…!
ヤナは必死に自身の本心を見抜かれないように強く地面に頭をつけていた。
「………そこまで言うのならいいだろう。あいつの手掛かりになりそうな情報を持ってきたのもお前だからな。…もう一度だけ挽回の機会を与えてやろう」
奴の言葉に一先ず安堵する。
「……ありがとうございます」
「それで?その美酒はどの位持ってくるつもりだ?」
「はい。美酒の方は1〜2本持ってくるつもーー「足りんな。5本は持ってこい」
「!?」
被せるように言ってきた黎音の言葉にヤナは動揺した。
「5本…ですか?しかし……アレは1本でもーー。ッ!?」
ヤナが最後までその言葉を言う事は叶わなかった。何故なら黎音が折れているヤナの左手首を思い切り踏みつけてきたからだ。
「いっ…ッ!!」
「…貴様はこの俺を侮辱してるのか。一度挽回の機会を与えてやってると言うのにまだ意見してくるとは身の程を弁えろ。…俺が持ってこいと言ったら肯定の言葉以外受け付けない。それで貴様がどうなろうとも俺の知った事ではない」
「ッ…!!」
上からの圧により治り始めていた左手首の骨は再度折り砕かれてしまった。痛みに顔を歪ませる。すぐに返事をしないヤナに切り捨てる様な言葉を投げ掛ける。
「……それともなんだ。貴様の代わりにあの女にそれを飲ませて戦わせようか」
「ッ…!!」
あの美酒の効果を知ってるのにも関わらず、そのような発言をした黎音の顔を思わず睨みつけてしまった。
「……まだそんな目をするのか。だったら今すぐ殺してやっても良いんだぞ」
「ッ……!」
俺は目を伏した。…ダメだ。今は逆らえない。落ち着け……。目を閉じて自身を落ち着かせたヤナは「……申し訳ございません。ご命令通り…お待ちいたします」と痛みで顔が歪みつつも謝罪した。
「…それでいい。あの女が大事なら…。どうすべきか考えるんだな」
スッと奴は足をどけた。
「お前は俺の言う通り動いていればいいんだ。
たかが、“犬”が飼い主に牙を向く等…甚だしい。………まあ良い。俺は少し“あっち”に用があるから行ってくる。分かったらさっさと部屋に戻れ。これ以上部屋を汚されたらたまらないからな」
そう言い残し奴は暗闇の中に消えていった。静けさを取り戻した部屋でヤナは頭を上げた。
「畜生……!」
バンッ!
誰も居なくなった部屋の中で、左手で床を殴り付けながら俺は歯ぎしりをした。
あんな奴の言いなりになるなんて…!でも、今は…まだ……。
「クソッ!」
立て続けに起こった出来事に屈辱感が残る中、それでも黎音の言いなりにならなければならない現実に惨めさを抱いていた………。
【第3夜 完】