Devil†Story
第5夜 Reiya[見直し予定]
―2ヶ月後―
すっかり桜は散り、薄ピンクだった景色から葉の緑色の景色に変わった。
「あー…あっちぃなぁ…」
麗弥はカフェの自室がある方の棟の窓から半分身を乗り出してパタパタと手で風を扇ぎながら呟いた。季節は6月の後半。若葉と梅雨明けのじめっとした湿気のある暑さで初夏の訪れが感じられる季節となった。
稀「本当最近暑いねー。そろそろ衣替えしないとっ」
傍らに居た稀琉が外を覗きながら言った。その顔には微笑みがあった。あの事件から少し表情が暗かったが今は立ち直って前と同じ稀琉に戻っていた。
(ほんま良かったわ…)
自分が輝太に対して思入れがなかった訳ではない。いい子だと思っていたし、母親の話を聞いてショックであった。何より…あんな小さな子の命が大人の身勝手な動機で奪われてしまう理不尽さに思うこともあった。ましてや自分がその奪う側の立場であることも、まだ子どもである麗弥の心に大きな棘を刺したことには変わらなかった。
それでも…稀琉の落ち込みようを見ていると自分までそうなる訳にはいかないことを無意識に感じていた。稀琉は本当に優しい性格だ。"あの事"がなければ他者から何かを奪うことは絶対になかったはずだった。だからこそ…自分まで落ち込んでいたらいけないと思っていた。
ふと視線を稀琉に向けると「この梅雨明けの湿気のある暑さは嫌だよねぇ。髪もはねるし」と自分と同じように手で風を扇いでいる姿を見て安心感があった。
ザァァ……
湿気のある風が吹いてきたと同時に機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。
「こんな所に居やがったか」
その声に後ろを振り向くとクロムが気だるそうに立っていた。あの日輝太の小さな命の灯火を消したのはクロムだった。しかし、クロムはあの日から変わらずに黙々と任務をこなしていた。ロスも然程気にしていない様子でいつもと変わらずに過ごしていた。それはそれで思うことがあったが2人が普段通りに過ごしていてくれたおかげで冷静になれたのかもしれないと今は感じていた。
「やぁ、クロム。君から声を掛けてくれるなんて珍しいね。どうかした?」
稀琉は嬉しそうに後ろを振り返る。元々クロムはあんまり交流をしたがらない。ロスとは部屋も一緒でほぼ常に行動しているようなものだが、それ以外の交流は皆無であった。本来なら同い年位の筈なので"普通"であれば稀琉と麗弥のように仲良く出来る筈なのだが全くそういう行動は見受けられなかった。そんなクロムの事なのできっと刹那に何か頼まれたのだと予想する。
「刹那が話があるからこいだとよ」
「ったく…なんで俺が報告書を出しに行っただけなのに伝言係りしなきゃなんねぇんだよ」と案の定、刹那から使いパシリにされており悪態をつくクロム。
「なんだ刹那から伝言か。わざわざありがとね。オレに?」
「麗弥もだと」
「へっ?俺もなん?」
麗弥の問いにクロムは「俺が知るか」と言った。
(あら〜冷たい言い方…。相変わらずやなぁ…)
「なんやろな。とりあえず了解やで」
「確かに伝えたからな」
そう言うともう用はないとばかりにすぐ後ろを向いてその場を立ち去る。その背中に稀琉は「ありがとねー!クロム」と言葉をかけた。あんまり反応がないとしても挨拶はきちんとせなアカンと麗弥も「おーきにー!」と続けて言った。軽く片手を上げて自室に帰って行った。
「相変わらず素っ気な〜」
「えー今日はいい方だよ」
「だって片手上げてくれたし。反応してくれて偉いよ」となんともコミュニケーションとして最低限の事しかしていないクロムを褒める稀琉に納得してしまう。そのくらい最低限の会話しかしてくれないのだ。
「まぁ、確かに。大体無視されるもんな。それにしても…俺と稀琉に用ってなんやろ?」
「なんだろうね。オレと麗弥2人にって珍しいよね。
潜入捜査とかかなぁ?」
何かを考えるように首を傾げて呟く稀琉。ここでの任務は基本的に単独が多い。それには理由があり、何かあった際に全滅を避ける為だった。最もクロムとロスはその掟は関係ないようでほぼ2人で行くことが当たり前であった。
「とりあえず行ってみよっか」
「せやな」
そう言って歩き出し、他愛のない話をしながら刹那のいる談話室へと向かうこととなった。
【第5夜 Reiya】
すっかり桜は散り、薄ピンクだった景色から葉の緑色の景色に変わった。
「あー…あっちぃなぁ…」
麗弥はカフェの自室がある方の棟の窓から半分身を乗り出してパタパタと手で風を扇ぎながら呟いた。季節は6月の後半。若葉と梅雨明けのじめっとした湿気のある暑さで初夏の訪れが感じられる季節となった。
稀「本当最近暑いねー。そろそろ衣替えしないとっ」
傍らに居た稀琉が外を覗きながら言った。その顔には微笑みがあった。あの事件から少し表情が暗かったが今は立ち直って前と同じ稀琉に戻っていた。
(ほんま良かったわ…)
自分が輝太に対して思入れがなかった訳ではない。いい子だと思っていたし、母親の話を聞いてショックであった。何より…あんな小さな子の命が大人の身勝手な動機で奪われてしまう理不尽さに思うこともあった。ましてや自分がその奪う側の立場であることも、まだ子どもである麗弥の心に大きな棘を刺したことには変わらなかった。
それでも…稀琉の落ち込みようを見ていると自分までそうなる訳にはいかないことを無意識に感じていた。稀琉は本当に優しい性格だ。"あの事"がなければ他者から何かを奪うことは絶対になかったはずだった。だからこそ…自分まで落ち込んでいたらいけないと思っていた。
ふと視線を稀琉に向けると「この梅雨明けの湿気のある暑さは嫌だよねぇ。髪もはねるし」と自分と同じように手で風を扇いでいる姿を見て安心感があった。
ザァァ……
湿気のある風が吹いてきたと同時に機嫌の悪そうな声が聞こえてきた。
「こんな所に居やがったか」
その声に後ろを振り向くとクロムが気だるそうに立っていた。あの日輝太の小さな命の灯火を消したのはクロムだった。しかし、クロムはあの日から変わらずに黙々と任務をこなしていた。ロスも然程気にしていない様子でいつもと変わらずに過ごしていた。それはそれで思うことがあったが2人が普段通りに過ごしていてくれたおかげで冷静になれたのかもしれないと今は感じていた。
「やぁ、クロム。君から声を掛けてくれるなんて珍しいね。どうかした?」
稀琉は嬉しそうに後ろを振り返る。元々クロムはあんまり交流をしたがらない。ロスとは部屋も一緒でほぼ常に行動しているようなものだが、それ以外の交流は皆無であった。本来なら同い年位の筈なので"普通"であれば稀琉と麗弥のように仲良く出来る筈なのだが全くそういう行動は見受けられなかった。そんなクロムの事なのできっと刹那に何か頼まれたのだと予想する。
「刹那が話があるからこいだとよ」
「ったく…なんで俺が報告書を出しに行っただけなのに伝言係りしなきゃなんねぇんだよ」と案の定、刹那から使いパシリにされており悪態をつくクロム。
「なんだ刹那から伝言か。わざわざありがとね。オレに?」
「麗弥もだと」
「へっ?俺もなん?」
麗弥の問いにクロムは「俺が知るか」と言った。
(あら〜冷たい言い方…。相変わらずやなぁ…)
「なんやろな。とりあえず了解やで」
「確かに伝えたからな」
そう言うともう用はないとばかりにすぐ後ろを向いてその場を立ち去る。その背中に稀琉は「ありがとねー!クロム」と言葉をかけた。あんまり反応がないとしても挨拶はきちんとせなアカンと麗弥も「おーきにー!」と続けて言った。軽く片手を上げて自室に帰って行った。
「相変わらず素っ気な〜」
「えー今日はいい方だよ」
「だって片手上げてくれたし。反応してくれて偉いよ」となんともコミュニケーションとして最低限の事しかしていないクロムを褒める稀琉に納得してしまう。そのくらい最低限の会話しかしてくれないのだ。
「まぁ、確かに。大体無視されるもんな。それにしても…俺と稀琉に用ってなんやろ?」
「なんだろうね。オレと麗弥2人にって珍しいよね。
潜入捜査とかかなぁ?」
何かを考えるように首を傾げて呟く稀琉。ここでの任務は基本的に単独が多い。それには理由があり、何かあった際に全滅を避ける為だった。最もクロムとロスはその掟は関係ないようでほぼ2人で行くことが当たり前であった。
「とりあえず行ってみよっか」
「せやな」
そう言って歩き出し、他愛のない話をしながら刹那のいる談話室へと向かうこととなった。
【第5夜 Reiya】