Devil†Story
―2ヶ月前 刹那SIDE―


「ふぅ……」


俺は椅子に寄り掛かりながらため息をついた。


―――――――――――――

「…クロム。まさかだとは思うけど……“契約違反”…してないよね?」


「……さぁ?」

―――――――――――――


「………」


あんな寒気がしたのは…いつぶりだろう。数多の暗殺者、殺人鬼…最早人間でない魔物を見てきた俺が…急に冷水をかけられた様な寒気を感じたのは。


やっぱりクロムが輝太くんの両親を殺したんだろうな…。クロムはあぁ見えて何故か小さな子どもには気をかけるからな。…でもいくら輝太くんの為とはいえ、あそこまで滅茶苦茶に切り裂くなんて…。それにあの笑った時の顔……。悪いけど人間には見えなかった。


あの子はまだ17歳くらいなのにあんな顔をするのか……。正確な年齢は知らないが稀琉や麗弥と変わらない年齢だろう。思わず長い息を吐く。


コン コン


ノックが鳴りそれと同時に扉が開かれる。ノックの意味をなさないこの部屋の入り方は…。


「…クロム!」


入ってきたのはクロムだった。気怠そうではあるが綺麗な姿勢で歩いてくる。「まだ起きてたんだな」と欠伸をしながらクロムは言った。


今は夜中だ。欠伸をし、頭をかきながら背伸びをしてる所を見ると普通の少年のようにに見えるのになと思う。……寧ろ猫に似てるかもしれない。よく寝るし夜行性だから。もちろん殺されるから本人には言わないけど。


「まぁ仕事でね。それよりどうかした?クロムが起きてここに来るなんて珍しいね」


俺はいつもの様に笑って聞いた。普段同様クロムの表情は1mmも変わらない。


「あぁ。…なぁ刹那」


「何?」


「今してる殺しの仕事の割合…どのくらいだ?全体で」


「えっ?」


「だから俺等と稀琉達の割合だよ」


クロムは少し面倒臭そうにそう言った。


「あぁ…。今のところ大体同じくらいかなー」


「ふーん……」


顎に手を当てて考えるような仕草をしている。


「何?足りないの?」


俺はおちょくる様に言った。いつもなら「…別に。ただ聞いただけだし。お前が決めてる事に文句は言わねぇよ」と眉間にしわをよせながら言うからだ。


そう…そのはずだったのに……。


「…流石話が早いな」


「…えっ?」


そういつもとは違う少し低い声で答えた。俺は驚いてクロムを見る。その目に紅黒い闇が増している様な気がした。


「ロスとの契約で…俺が人間を殺らないといけないのは知ってるだろ?」


「あ…あぁ」


「なのに療養しろって言う稀琉のせいで2週間以上殺せなかった。やっと殺れたのがガキ1人じゃ…そろそろ“血印”が暴走する。だから当面の間はその類の任務は俺の方に回してくれ」


クロムは表情を変えずにそう言った。…そう。クロムが他者の命を執拗に奪う理由…それはロスとの契約時に出た“血印”の暴走を抑える為だ。悪魔と契約した人間は一定量の“血”を浴びなければならなくなるらしい。分かりやすく数でいえば1週間で3人位の命を奪わないとならないようだ。


クロムはその前からそれ以上の人間を殺めているので今まで暴走しなかったみたいだが………。もし浴びなければ…体に浮き出た血印が暴走し激痛が走るらしい。その痛みは…地獄の拷問と同じくらいだと契約主のロスから説明された。あのクロムですら「あの痛みは二度と味わいたくない」と言うくらいだ。通常では考えられない程の痛みなのだろう。


「…もうストックがないのかい?」


「あぁ……。多分な。まぁ……俺が殺したいってのもあるし」


「えっ?何――」


俺が顔を上げようとした瞬間……


「つーか…死にたくなかったらの話だけどな」


ゾッとする様な声がした。前を向くとクロムの姿はなく、代わりに首に手をかけられる感覚で背後を取られていることに気付いた。グッと首に爪が刺さる感覚がある。まるで「いつでもお前等なんか殺せるんだからな」と言ってる様だった。


ゾクッ……


また寒気が走った。


「……なんてな。冗談だ。とにかく頼むぜ。“オーナー”?」


いつもは“オーナー”なんて言わないクロムが離れて前にまわりながら薄く笑いながらそう言った。……今のが冗談の顔か?だが…ここで少しでも取り乱すわけにはいかない。


これでも俺は本当にオーナーなのだから……。オーナーとしてのプライドがある俺は咳払いをしてから答える。


「…君から“オーナー”なんて呼ばれるのは…いつぶりかな?まぁ良いよ。分かった」


「頼んだぞ。じゃあそれだけだ。俺は戻る」


「うん」


カツン コツン……


クロムが歩く靴音がやけに響いて聞こえる。


ガチャ…


クロムが扉に手をかけたのと同時に声をかける。


「クロム」


「?」


扉に手をかけたままクロムはこっちを向いた。


「おやすみ」


「……あぁ」


ガチャ…バタン


クロムは軽く答えると出て行った。…素直に返事するところは本当に普通の子どもみたいなのにな…。


それにしても仕事を増やせ…か。出来れば落ち着くまでは、そんなにやらせないつもりだったのにな…。


仕方ないか。苦しめるわけにいかないし…何より殺されるわけにもいかないしね。


アレは本気の目だった。契約違反もしちゃってるし…当分クロムに目を光らせとかないとな……。俺はまた深い息を吐いた。
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